ライターもエンジニアも医療従事者です。医師が手がけるメディア「Medical Note」の全貌

2016年末、インターネットで公開される医療情報の信憑性をめぐり、メディア業界は揺れました。企業のマネタイズのために、専門家のチェックが入らないまま記事が量産され、発信されているという実態に業界のみならず、多くの方が衝撃を受けたことでしょう。

2015年の3月にローンチした医療メディア「Medical Note」は「医師による確かな情報発信」をポリシーとし、専門医によるクオリティーが高い記事を公開し、他の医療メディアと一線を画しています。

同メディアを運営するのは、株式会社メディカルノート。CEOの木畑宏一さん(写真右)と同CTOの河本穣さん(写真左)のお二人から、前編・中編・後編の3回に分けて同社の取り組みやキャリアをご紹介いただきます。

前編では、このメディアはなぜ生まれ、どのようにして正しい情報を発信し続けているのかについて、CEOの木畑さんからうかがいました。

メディカルノートの取り組み

メディカルノートは2014年10月に創業し、正しい医療情報を発信するメディアMedical Noteの運営と、医療機関向けの支援として病院の経営コンサルティング、事業承継、マーケティング事業を手がけています。

「どの病院に行けば良いのか分からない」患者さんを救いたい

私が医師として医療現場に立っていたとき、医師の雑務が多かったり、コミュニケーションを取る時間が少なかったりという現実に直面しました。ベストを尽くしたいという思いはあるものの、患者さんの満足度を上げる十分な時間やリソースが足りないのです。

一方、医療を受ける患者さん自身が、医療に迷ってしまうことが多々あるように思います。病気になったときに、どんな病院に行っていいか分からない。自分が受けている治療が適切か、その後のフォローアップも正しいのかどうか判断できない。こうした医療従事者と患者の医療情報のギャップをなくしたいという思いから医療メディア、Medical Noteは生まれました。

メディアローンチ前は医師探しに苦戦

メディアをローンチしたのは2015年の3月。メディアの影も形もなかったときには、どのような形で情報発信されるかがイメージされにくく、協力いただける医師集めに難航しました。

しかし患者さんのため、「分かりやすく、信頼できる医療情報が必要だ」と地道にお願いし続けた結果、Webで情報発信をしたり、書籍などを出したりしている一部の医師の方々に次第に共感いただけるようになりました。

先生方も「患者さんと医療情報のギャップを埋めたい」という思いを抱えていたようです。その後メディアが公開され、目に見える形になってからは協力いただける方が増えました。

各分野のスペシャリストによる確かな情報のみを発信する

弊社以外にも、医療メディアを運営し情報提供している企業はいくつかあります。しかし医師の監修やチェックが入らず、真偽が分からないままネットで公開されている医療情報も少なくありません。

間違った情報によって健康被害が生じてしまう可能性があるので、医療情報の扱いはとてもセンシティブ。くわえて、医療は専門が細分化されているため、各分野の専門家でないと適切な情報を発信できません。

Medical Noteでは、すべての記事が各疾患の専門家への取材をもとに作成されています。現在(2017年1月)、教授や院長・部長クラスを中心に700名を超える医師に取材協力をいただいていますが、みなさん各分野のスペシャリスト。学会の会長や、数多くの論文を発表されて世界的に著名な方々にお話をうかがっています。

日本の緑内障研究第一人者など、世界でも指折りの医師が情報を発信する

医療に関するビジネスを行う責任。何重にもチェックを重ねてクオリティーを保つ

医療情報の発信には責任が伴います。インタビュイー選定でも、医師に「自分が病気になったら、どの先生に診てもらいたいですか?」とうかがい、推薦していただいているので、国内屈指の医師たちが集まっていると自負しています。さらに医師が顔と名前を出して登場しているということも、大きなポイントです。「信頼できる医療情報とは何か?」という問いに正解はありませんが、誰が情報を発信しているかを明示するのは重要だと思います。

医療従事者の参考資料にもなっている

メディアのメインターゲットは一般の患者さん。しかし記事は「多発性骨髄腫の治療、若い方への治療『造血幹細胞移植』について。」など深い内容のものが大多数。ダイエットをテーマにするような一般の健康サイトに比べると難しい内容が多いです。これは私自身が医師をしていたから分かったことですが、実際の患者さんやそのご家族などは、より深いレベルの情報を求めています。専門的な情報を求めている方には、Medical Noteの記事は的確に届いていると思います。また、メディア読者の1~2割は医師や看護師、薬剤師。医療従事者の参考資料にもなっているようです。

記事はすべて内製化しながらも、月70本以上を公開

現在月に70~100本ほどの記事を公開していますが、クオリティーを保つため基本的に社内の医療ライターが取材から執筆、公開まで手がけています。記事公開前には、インタビュイーの医師にもしっかりと内容確認をしていただき、情報に間違いがないかを必ず見ていただいています。基本的な部分は、私のような社内常駐の医師が表現に間違いがないかをチェック。誤解を生むような表現・間違いは指摘します。記事執筆から公開までいくつものレイヤーを設けて、厳重なチェックを行うのは、どれだけ手間や時間がかかったとしても正確な情報を出すべきだと考えているからです。

スタッフ全員が医療従事者であるという価値観を共有

現在6,000記事を公開しているMedical Noteですが、積み上げてきた実績によって少しずつ変化が起きつつあります。

病院の経営課題を手助けする医業支援事業を開始

メディアの認知度が上がったおかげで、理事長や医院長、大学教授など、病院の意思決定に関わるようなクラスの医師と接点が生まれました。そうした方々から話をうかがうと、人材採用や赤字経営、事業承継……などなど患者さんとの情報ギャップ以外にも様々な問題を抱えているようです。そこで、病院のこうしたニーズをうかがい、解決の手助けをする医業支援事業も2016年から始めました。広報活動やオペレーションの効率化、医療法人の設立や承継支援など、多くの課題解決をサポートしています。

ライターもエンジニアも医療従事者

社員にはよく「うちはITの会社ではなく、医療の会社です」と話し、社内では全員が医療従事者であるという価値観を共有しています。社員の平均年齢は20代後半で、現在37名(ライター・編集者、医療機関にオファーするスタッフ、エンジニア、医療機関の支援スタッフ、バックオフィスなど)。1年前は10名ほどだったことを考えると、急速に規模を拡大したといえるでしょう。

メンバー増員に伴い、2017年4月から拠点を移します。オフィス面積は2.5倍となり、大きめのイベントが開催できるスペースも設けました。移転後はエンジニア向け勉強会も開催予定です。

ライターには元医療従事者もいますが、社員のほとんどが医療業界未経験者です。しかしメンバー全員が「医療を良くしたい」という理念があるから、うまく続いているのだと思います。

現在の課題は一方的にしか情報発信ができていないこと。それを解決すべく、2017年春から始動する新規事業では、より密接に患者さんと医療情報のギャップを埋めていきたいと考えています。

小宮川 りょう
モノ情報誌等を経て、現在フリーランスの編集ライター。①ポリティカルコレクトネスに則り、②読み手にわかりやすい平易な表現で、③取材対象者のロジックを際立たせる文章をモットーに、よろず分野で執筆しています。