医師、マッキンゼー、MBA、投資ファンドを経て起業。医療業界を変革するメディカルノートCEOの挑戦

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2016年末、インターネットで公開される医療情報の信憑性をめぐり、メディア業界は揺れました。企業のマネタイズのために、専門家のチェックが入らないまま記事が量産され、発信されているという実態に業界のみならず、多くの方が衝撃を受けたことでしょう。

2015年の3月にローンチした医療メディア「Medical Note」は「医師による確かな情報発信」をポリシーとし、専門医によるクオリティーが高い記事を公開し、他の医療メディアと一線を画しています。メディア運営に加えて、各領域のプロフェッショナルが集結し、医療機関の経営をサポートする医業支援事業も加速しています。

前編では運営会社メディカルノートの取り組みと同社メディア「Medical Note」を紹介しました。今回は医師としてのキャリアを持ちながら、現在はビジネスの世界から医療業界にアプローチをする同社CEO・木畑宏一さんのパーソナリティとビジョンに迫ります。

医師は自分にとっての天職だった

子どもの頃から医療に親しみがありました。きっかけは幼少期。その頃私は体が弱く、小学生になっても病院通いの日々。毎日のように通院するうちに、医師に対しての感謝と憧れが募っていきました。先祖代々医師の家系で、親戚に医師が多かったこともあり、自然と医師を志すようになったのです。

医学部を卒業してからは、小平市の公立昭和病院で働くことに。医師は自分が努力すればするほど患者さんに対して貢献できる仕事です。非常にやりがいのある職業だと感じ、毎日夢中になって働きました。

医師は自分にとって天職だったといえるでしょう。

「知れない」患者に、「忙しすぎる」医師

医師として充実した日々を送りながらも、医療業界が抱える問題に気づきます。

特に患者と医師の間の「医療情報のギャップ」を感じるようになりました。患者が病院選びや治療方法、フォローアップなどの正しい情報を得られる機会は滅多にありません。

一方で医師は多忙です。仕事量が多いにも関わらず、仕事効率化のノウハウが乏しく、患者さんと向き合う時間がなかなか取れません。一人一人の医師が理想とする医療のビジョンを持ちながら、業務に追われて疲弊してしまうのです。

赤字経営で苦しむ病院が多いのも、医療業界が抱える問題のひとつです。経営戦略、マーケティング、運営オペレーション、基幹システム……病院運営のすべての問題を、医療従事者だけで解決することは難しいでしょう。

仕事を効率化するためのITツールや、病院をうまく運営するための組織設計ノウハウがあれば、医療従事者の負担が減り、問題解決につながるかもしれない。2年間医師として働いたのち、医療の世界から飛び出すことを決めました。

もちろん、医師として働きながら解決する道もあったでしょう。しかし、異なる世界で知見を広めていきたいという思いが湧いていました。他の業界でどんなことが起こっているのかをよく理解し、「ビジネスの知見を医療の世界に持ち込んだら、目の前にある問題が解決できるのではないか?」と考えたわけです。

「医師から転職する」と親に言ったときは、グレたと思われた

コンサルタント、MBA取得、投資ファンド……そして創業

転職先はマッキンゼー・アンド・カンパニー。コンサルタントとして様々な企業の問題解決に取り組みました。とはいえ、いずれは医療の世界に戻ろうという決意のうえでの転職。異業種のノウハウを医療業界に持ち帰る方法や、知見をどう生かすべきかを考え続けていました。

人の縁を通じてアメリカ、インドへ飛ぶ

マッキンゼーで得られた最大の資産は「人」でした。自分のやりたいことを追求して事業を立ち上げた同期や、退職後に活躍しているOBとのご縁など、今でも多くの方に助けていただいています。

その後ハーバードのビジネススクールで学び、2年間かけてMBAを取得。「違う国に行きたい」という好奇心と、有名な病院が多いボストンの街を見てみたいという思いが勝って単身で渡米しました。

MBA取得後は、ハーバードで出会ったインド人に頼み込み、インドの心臓病専門病院で働きます。帰国後は投資ファンドに在籍しつつ、週末は医師として働きました。

心臓外科手術が平均25万円!木畑さんが働いたナラヤナ・ヘルス病院

ナラヤナ・ヘルスケア(インド・バンガロール)での経験は刺激的でした。

インドでは心臓を悪くして、満足な治療を受けられないまま命を落とす人が少なくありません。さらに患者の2~3割は18歳未満。心臓病で苦しむ人々を救うべく、ナラヤナ病院は心臓外科の治療に特化し、年間6,000例の心臓外科手術を実施しています。

トヨタカンバン方式のように、流れ作業で心臓外科の治療に集中。さらに、電気代を抑えるために自然光を取り入れた病棟デザインや、使い捨ての手術着を導入して徹底的にコスト削減をしています。費用が安いとはいえ、導入されている設備は最新鋭のものばかりです。

レベルの高い治療のため、インド国外からも治療に訪れます。そうした富裕層の患者さんには多めに治療費を支払ってもらう一方、高額な医療費が支払いきれない貧困層が安価で治療を受けられるようにしているのです。

素晴らしい仕組みですよね。将来的にはこのような病院を作れたらいいなあ、と思うようになりました。事業の知見を医療に活用することで、質の高い医療と良質な病院経営が実現できることに改めて気付きました。

正しい医療情報を伝えるメディアと医療現場サポートを事業の主軸に

メディカルノートの創業は2014年10月。共同創業者の井上は私の中高の後輩で、以前より患者さんや若い医療従事者向けの書籍を執筆するなど、積極的な情報発信を行っていました。

井上が主導し、患者に正しい医療情報を提供するメディア「Medical Note」を2015年3月にリリースしました。2016年にはインドで見てきた事例を参考にしながら、事業界の知見を医療に持ち込むことによって、医療機関の経営コンサルティングやマーケティング、事業承継、人材採用支援などを行う医業支援事業を始めており、第二創業期のフェーズに入りました。私も前職を辞してフルタイムで参画することとなり、井上とともに共同代表に就任しました。

2017年春には新規ビジネスの展開も予定しています。幸いにも医療に志を持つ、また医療に関心を持つ、金融、IT、経営のプロフェッショナルに多く参画してもらっており、「テクノロジーと経営の力で、医療に新しい選択肢を」をビジョンに掲げ事業展開を図っていきます。

週に一度は臨床医として現場に赴く

医療ビジネスに携わるうえで、医療の現場感覚があるかどうかは大きな違いになると思います。メディカルノートを手がける現在でも、週に一度は医師として勤務しています。やはり現場にいないと、ニーズを肌で感じることはできません。

ITはあくまで問題解決のためのツールです。様々なことを試し、実験結果を見つつ改良することができますが、医療業界では人の人生がかかっている以上、そう簡単に実験はできません。医療の最終的なゴールは患者さんの健康です。慎重な姿勢が求められる点では、ITと大きく異なります。

私たちメディカルノートはIT企業ではなく、医療の問題を解決する医療の会社です。社内でもスタッフ間で医療従事者であるという意識を共有しています。しかし慈善事業ではないため、きちんと医療の世界に貢献しつつも、事業として成立させなければなりません。ビジネスと医療の両方の視点を持つことが大事だと考えているからです。

メディアも順調に成長していますが、患者と医療従事者の間にある情報のギャップはまだ解決していません。今後も新しいサービスを展開していくなどの、ありとあらゆる手段で医療業界の問題解決にアプローチし続けたいと思っています。

木畑宏一 株式会社メディカルノート 代表取締役社長・医師

東京大学医学部卒業。医師として働く中で、医療の現場を改善することを志す。コンサル会社に勤務した後、ハーバード大学でMBAを取得。ハーバード大学関連病院やインドのナラヤナ病院の経営現場を体験。投資ファンドを経て、日本の医療へ病院経営の観点で貢献したいという思いで、医師として多数のベストセラー医療書籍の執筆を手がけた井上とともに、株式会社メディカルノートを創業。