金融の営業職だった僕がいつのまにか「指圧師ライター」になっていた話

日刊キャリアトレック編集部が転職経験者に「はじめての転職」について聞いてみました。
今回お話をしてくれた方:斎藤充博さん/埼玉大学卒/ノンバンク金融の営業職 → 指圧師・ライター

埼玉大学教養学部を卒業して、新卒で入った会社は東証一部上場のノンバンク金融だった。

でも別に、金融業に特段の思い入れがあったわけではない。毎晩就職サイトとにらめっこしながら、条件で絞り込み、内定が出たのがそこだったというだけである。

就職活動中に人事からは「当社では営業はソリューションと考えている。一方的に売り込むのではなく、お客様の話をとことん聞いて、それに見合う提案をするのが営業だ」と説明されていた。これだったらやれそうな気がしていた。人の話を聞くのは苦にならないから。

ノンバンク金融で埼玉県北部のエリア営業

ところが会社に入ると、全く別の問題に直面することになる。

配属されたのは埼玉県の大宮支店だ。担当した仕事は川越から熊谷までのエリア営業である。

その結果、勤務時間のほとんどが「大宮支店から営業先への車の運転」に費やされることになった。毎日100キロくらいは車の移動をする。大宮から北上する国道17号線はひどい渋滞だ。

金融の営業に「車を毎日長距離運転しても苦にならない」スキルが必要だったとは……。学生の時には全く思いもしなかった。僕はこの時ペーパードライバーだったのだ。

グータラ営業マンの出来上がり

もう「お客様の話をじっくり聞く」どころではない。

渋滞している道路では、次のアポ先までの所要時間が全く読めないからだ。僕は腕時計をチラチラ見ながら、適当にお客さんの話を切り上げる営業マンになっていた。

しかし、実際に次のアポ先まで車の運転をしていると、こちらの予想に反して道路が空いていて、30分以上早くアポ先に到着してしまうこともある。電話してアポの時間を早めてもらうか? それともアポの時間まで車で待機していようか……。

うん、待機だな。ケータイのアラームをセットして、運転席をリクライニング。睡眠。もう立派なグータラ営業マンの出来上がりである。こんな人間の営業成績など上がるわけがない。

しかし営業車の中でずっと悩んでいたのである。「おれ、一生このままでいいのかな?」

自分って何をやりたいんだっけ?

そもそも深く考えて入った会社ではない。じゃあ、自分のやりたいことってなんだっけ?

大学時代は部活で少林寺拳法ばかりやっていたっけな。部活以外でも、高名な武術家のところに行って、講習を受けることもあった。武術は結局たいしてモノにはならなかったけど、他の仕事に生かすことはできないだろうか?

そう……例えば、人を治すこととか。これはそんなに突飛な発想ではなくて、武術の世界から治療家になる人間は多い。

指圧師になることを決意

悩んだ末に、指圧師の養成学校「日本指圧専門学校」に進むと決めた。学校の期間は3年間、学費はざっくりと400万円程度。

あまり知られていないが、指圧師の資格は「医療系の国家資格」ということになり、かなりコストがかかってしまう。しかし、やると決めたのである。

とにかく学費を用意しなくてはいけない。親には反対されるだろうが、学費を全部自分で用意すれば、どんなに反対されても問題ない。そこから先は学費を貯めるだけと割り切った会社勤めだった。

結局、丸4年勤めたのちに退職し、僕は日本指圧専門学校の学生になった。

学生と同時にライターになる

学生になるのと同時に、もう一つ始まったことがある。「デイリーポータルZ」というウェブサイトのライターになったのだ。

単純にサイトのファンであり、毎日デイリーポータルZを読んでいた。そこには記事の投稿コーナーもあった。僕は読むだけじゃ物足りなくなってきて、段々とそこに投稿するようになっていた。

何回か記事が採用された後に、編集長からメールが来た。メールタイトルは「記事を書いてみませんか」。びっくりしてその日眠れなかったことをよく覚えている。これが金融の会社を辞める2か月ほど前の話だ。

以後、月に2~3本程度デイリーポータルZに掲載する記事を書くことになる。毎月入る原稿料はとても助かったし、何よりも楽しい企画を考え続けることで、貧乏な学生生活が救われていたと思う。

指圧師として働きながらライターの仕事も受ける

問題なく学校を3年で卒業して、僕は指圧師として働くようになった。

高齢者向けの在宅マッサージと、自分で運営する「ふしぎ指圧」の2か所である。「ふしぎ指圧」の方には、デイリーポータルZで僕の記事を読んだ人たちがたくさん来てくれるようになった。

指圧師として働き始めて3年ほど経つと、また自分の仕事が少し変わってきた。ライターの仕事がバンバン来るようになったのだ。この数年でスマートフォンが普及し、みんながネット記事を読むようになっていた。僕の指圧師という職業も良かったのだと思う。

僕の名刺には一番目立つところに「指圧師・ライター」と書いてあるのだが、この組み合わせはウェブコンテンツ業界の人には相当インパクトがあるらしい。

ある媒体の編集長からは「この肩書からはカネの匂いがするね!」と言われたこともある。そうそう、前職は金融だったので、会計の知識をわかりやすく解説した記事も書くことができる。

今は高齢者向けの在宅マッサージはやめて、「ふしぎ指圧」とライターの2つの仕事をメインにしている。そして、最近では指圧師の収入よりもライターの収入の方が多い。

全ての仕事が次につながる

こんな風に、全く異なる業界の仕事をいくつかして来たが「全ての仕事は勉強になる」と思う。

どんな業務であっても安定的に運用するには、教科書やマニュアル以上の知識が必要になるからだ。それは絶対にお金では買うことができないものである。

会社を辞めた時は無茶だとみんなに言われた。でも、やっぱりあの時思い切って良かったなと今になって思っている。

自分に向いている道なんて他人にはわからない。

(了)

日刊キャリアトレック編集部
日刊キャリアトレック編集部です!