ブレーキは踏まない。アクセルだけあればいい―スープストックトーキョー・松尾真継さんの習慣を知りたい【後編】

前編では、仕事への取り組み方を語ってくださった松尾さん。後編では人を巻き込んで組織を盛り上げていくための習慣を伺いました。

6. 効率はどうでもいい。効果だけが大事

「効率なんてどうでもいい」という話をよくしているんです。「大事なのは効率よりも効果だ」と。

最初から効率的にやろうとすると小さくまとまってしまうんです。それって全店でできますか?何年続けられますか?……そんなことを考えていくと、だんだんできることが少なくなっていってしまいます。

たった一日、一回限りでもいい。全力でやって目の前の人に火を付ける。そういう体験こそが大事なんです。成功したとか、人を本気で感動させたとか、そういう経験を持っている人はまれです。だから成功体験をすることで、仕事はすごく楽しく、自分ごとになるんです。

多くのスタッフに物事を伝えるなら、メールの一斉送信が便利です。でもスタッフひとりひとりに高い温度で共感してもらいたいと思うなら、メールでは伝わらない。ひとりひとりと面と向かって、何時間でも同じ話を繰り返すしかありません。

7.「かもしれない」でブレーキを踏まない

Zenkai

あるとき、こんなミーティングを目にすることがありました。

ある社員が「マスクをしてご来店されるお客様に、『お風邪ですか? 花粉症ですか? お大事にしてくださいね』と声をかけたいです!」と言い出したんです。どうぞ、むしろやってくださいという感じですよね。でもそこにいた別の社員が「マスクをしていない人が後ろに並んでいたら、なんだか差別された気になりませんか?」と言ったんです。確かにそれも正論。それを聞いて、会議を取りしきっていたマネージャーはこう言ったんです。

「そういうの、やめましょう。右に行けば、必ず左から何か言われるし、逆もそうだ」

「子供連れの人に、かわいいですねと声をかけて、もし後ろにいる人が子供が苦手な人だったら?ご結婚おめでとうございますと声をかけて、後ろの人が離婚したばかりだったら?だからおめでとうと言わないのは、だから気遣わないのは、絶対に違う。実際に言われてもいないのに『かもしれない』でブレーキを踏むのはやめよう。ブレーキなんていらない。アクセルだけ踏もう。もしそれでクレームがあったら、責任は全部こちらで取る。だからやろう!」

僕は離れたところから見ていたのですが、もう心の中で拍手喝采で、泣きそうになりました。ブレーキを踏まない。いつもお客様のためにアクセルを全開にして進む。それ以来、これまで以上にそのことを胸に物事にあたるようにしています。

8. 嬉しいことは共有してみんなで熱量を上げる

あまりに嬉しかったので、このミーティングの話をことあるごとにみんなに披露しています。よかったこと、素敵だったことを共有していくと、みんなの熱量がどんどん上がっていくんです。

そうしたら、今度は神戸にある店舗の若い店長が「子供連れのお客様に、全力で『バイバイ!』と言います!」と言い始めたんです。それを続けていたら、子供連れじゃないお客様に対しても、どんどんサービスが良くなっていきました。

これは実際にお客様から教えていただいた話です。そのお客様は、食事の途中で体調が悪くなったので、家で残りを食べようと思って、食べかけを持ち帰れる容器に移してほしいとスタッフに言ったそうなんです。するとスタッフに「それはいたしかねます」と言われてしまった。そうかダメなんだ、と一瞬思ったところ、スタッフがこう言ったそうです。

「残ったものをお持ち帰りいただくわけにはいきません。新しいものをお持ち帰りいただきたいので、少々お待ちいただけますでしょうか」

「バイバイ」と言うだけのことが、全体に繋がっていく。子供連れのお客様に始めたことが、そうでないお客様にまで広がっていく。いつもみんなで熱量を上げていくために、こういう嬉しいエピソードをすぐに共有するようにしているんです。

9. 返事は競い合うほど速く

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気がついたら夜が明けていた、ということもあるそう

嬉しいことや楽しいことを共有するために、社内にSNSを作りました。最初は僕が飲み会の写真をアップするだけでちっとも盛り上がらなかったのですが、だんだんみんな参加するようになってきました。

嬉しかったエピソードを、それぞれの店舗の店長がSNSに上げるんです。すると「いいね!」がどんどんつく。最近は、そこにいかに速くコメントするかを競っています。競っていると誰かがはっきり言ったわけではないんですが、絶対に競っているんですよ(笑)。常に見ているわけではないので、先にコメントされていると負けた気になって悔しい。そういうときは、絶対にもっと熱いコメントを書こう!という気になります。

みんなで盛り上がろうというとき、無関心なのが一番ダメなんです。すぐにレスポンスすることをみんなが繰り返していけば、どんどん楽しくなってくる。競い合うくらいがちょうどいいなといつも思っています。

10. 好きとありがとうをはっきり言う

ポジティブな気持ちは、折に触れ言葉にしてハッキリ言うようにしています。

2016年の初めに、スープストックトーキョー70店舗すべてに宛てて、一枚一枚年賀状を書きました。働いてくれているみんなの名前を書いて、当然伝えたいことが違うから、文面だって別々。いつもの感謝の気持ちを年賀状にしたためました。

そうしたら、ある店舗へのメッセージが7行で、別の店舗へのメッセージが8行になっていて、「どうしてうちの店舗は1行少ないんですか!?」と言われたこともありました。さすがにそこまでは同じにできないなと思う半面、そんな風に言ってもらえるほど楽しみに読んでくれたんだなと僕も嬉しい気持ちになりました。

好き、ありがとう、嬉しい……こうしたポジティブな気持ちは、お互いに表現することでどんどん連鎖して、全体に広がっていくものなのです。

スープストックがめざすのは「世の中の体温を上げる」こと。お客様や社員の日常、ひいては人生も温めていきたいと思っています。

まとめ

Matome

生活習慣は5年後、10年後の自分に響いてきます。地味な習慣でも、意識して毎日続けることが大事。この機会に、今一度自分の生活習慣を見直してみてはいかがでしょうか。

松尾真継さん

Matsuo prof

株式会社スープストックトーキョー 取締役社長

1976年生まれ。早稲田大学法学部卒、1999年日商岩井(現、双日)入社、2年半でファーストリテイリングに転職。店舗勤務後、新規事業会社設立に関わる。2004年にスマイルズに入社。商品部長、営業部長、事業統括などを経て2008年2月のMBO(三菱商事からの独立)時に副社長に就任。2016年2月、株式会社スープストックトーキョー設立に伴い、取締役社長に就任。

薄井千春
編集者。出版社では雑誌の編集記者として150人超のベンチャー経営者を取材する。事業会社で旅行記事のWebライティングを手がけたのちに株式会社ZINEに入社。得意ジャンルは起業・新規事業動向と旅行。最近気になるのはPCゲーム。